2023.07.18

第2回
障がい者雇用から見えてきた
多様性を受け入れる社会の姿とは。

障がい者雇用の最前線を行く日本理化学工業と、特例子会社のダイソーウイングを中心に障がい者雇用に向き合う大創産業とのスペシャル対談の第2回をお届けします。「障がい者がもたらす思わぬ効果」など、今回の対談から、多様性を受け入れる未来の社会の姿が見えてきました。

     

※日本理化学工業とは?
粉の飛散が少ない「ダストレスチョーク」で国内トップクラスのシェアを誇るメーカー企業。その一方で、1960年から知的障がい者の雇用をスタートさせ、社員の約7割が知的障がい者という、障がい者雇用のパイオニア企業としても注目を集める。現在、国産のお絵描き道具「キットパス」をStandard Productsと共同して販売している。

 

働くうえでの環境は誰しも平等にあるべき。

「ダイソーから羽ばたいて、自立・成長・自活してもらえたら嬉しい」という言葉、素敵だと思いました。
そのためには、やはり仕事に自信を持てるようにすることが大切です。自信はモチベーションになるので、そういう環境は作り続けていきたいですね。
一生懸命作業してくれていたら「ありがとう」と声をかけ、逆に、やってはいけないことをしてしまったら、ダメな理由を丁寧に説明する。真剣に向き合っていけば伝わると思います。それが関係性を深めることになり、居場所や自信にもつながっていくと思います。
モチベーションを上げるという意味では、環境も大切です。障がいに関係なく、働くうえでの環境は誰しも平等にあるべきですから。
まずはそこから始めないと、社員のモチベーションは上がらないですよね。
過剰にやる必要はなくても、最低限の整備は必要です。障がいによっては、なかなか伝えられない方もいますから。情報を得るために色々とアンテナを張ることも重要です。
環境面で言うと、当社ではご家庭との連絡を密に取っています。何かあればご家庭にもお伝えするし、逆にご家庭で何かあったときに私たちがその状況をわかっていれば、声のかけ方など、対処の仕方を変えることもできますから。
ある会社様は、毎月の定例会にご家族を招待して一緒に会議をされていると聞きました。御社ではどういう風にご家族とコミュニケーションをとっておられますか?
最初の実習の時から親御さんにも来てもらうようにしています。面接もそうですし、家庭が応援しているかどうかも重要ですから。
毎年、年末に会社内で行う表彰式を含めた忘年会に親御さんを招待し、親御さんの前で社員の表彰もします。接点を増やせば、後で必ずつながるんじゃないかと思っています。
参考になります。当社でも実現できるように進めていきます。
成長したポイントを見つけて気づくという意味においても、表彰することは、対象者を推薦する者にとっても成長の機会になります。互いに刺激を受けて成長していけるんです。

 
 

障がいは、みんながより生きやすくなる“きっかけ”を教えてくれるもの。

先日、御社に見学に行った社員から「マニュアルに人を合わせるのではなく、個々のスキルに合わせてマニュアルを作っている」という話を聞き、感銘を受けました。
ありがとうございます。当社がこれまでやってこれたのも、そこに気づけたことが大きいと思います。
作業工程に人が合わせていくのが通常だとは思うのですが、逆の発想でいけば、その人の能力をもっと引き出してあげることができるんじゃないかと思ったんです。
当社もダイソーウイング大阪センターで製造関連の業務がありますが、1人1人の理解力も、やりやすい手順も違います。
なので個々に合わせてできるような治具を支援の方たちと協力して作ることがあるんです。そうするとどんどん生産能力が上がっていきます。
この話に関連して、最近気づいたことがあるんです。この工夫って、その人に向き合うことの延長線上で行っていますが、もっと先を考えると、みんなにとってやりやすい仕事になっていることに気づかされたんです。
と、言いますと?
その人のことを考えて行ったことですが、僕も含めた他の社員にもやりやすくて、わかりやすいものになっていたりします。
これが本質だと思っていて、何か苦手なことがある人がいたとして、その人のために考えたことが、結果として周りにも影響を与えている。その人がいたから見つけることができたんです。
確かにそうですね。
例えば、パラリンピックの目的に「インクルーシブな社会を作る」とあるんですが、それってみんなにとってより良い社会を作っていくことで、パラリンピックの後に、そういった社会ができている。
つまり、パラのアスリートや障がいのある方がどういうところに不都合や不便を感じているかを知ることで、手立てを考えるきっかけになり、結果としてより生きやすい社会に変わっていくんです。私たちがやっていることと同じだと思えました。
トヨタ式の「カイゼン」に近いかもしれませんね。どうやったら良くなるかを考え続けるのはすごく大事なことです。
数字が読めなければ色で見てもらうとか、本人がわかる感覚で表現することは大切なことで、色々やってみると見えてくることがあります。
その人たちがいてくれたからより良い社会になるということは、その人たちが教えてくれているということです。
障がいと聞くと、何かが苦手な人なんだと思ってしまうかもしれませんが、色々なことを教えてくれて、より良くなるきっかけをくれている人だという見方に変わったら、社会のあり方や障がいのある方への視線は間違いなく変わると思います。


気遣いすぎず、普通でいい。障がい者との関わり方。

パラスポーツの話がありましたが、実は、ダイソーウイングには車椅子ソフトボールの日本代表のスタッフがいるんです。去年は世界大会でMVPをもらって優勝もしました。そのスタッフと関わるようになって、私も気づいたことがあります。“伝えることの大切さ”です。
知ってもらうきっかけを作ることも、我々の使命かもしれませんね。
車椅子ソフトボールはまだ競技人口も少なく、マイナーなスポーツで練習場所の設備なども整っていないんです。障がい者、健常者関係なく誰でも一緒にできるスポーツなので、昨年、当社の50周年の機会に広島県内の小中学校を回るイベントをやりました。体験教室などは子どもたちからも好評で、今年もやろうという話になっています。
これとは別で広島県で行われる「インクルーシブ・スポーツ・フェスタ広島2023」にも協力します。もっと沢山の人に伝えていかないと施設も環境も整いませんから。
伝えるという意味では、メディアの取材を受けるのも自分たちの役割だと感じることがあります。障がいのある方たちと関わるのは、私たちにとっては当たり前の事です。でもこれって外から見たら当たり前じゃないかもしれない。
この対談記事も、もっと多くの方たちに読んでほしいですね。
「当社はこれだけ障がい者が働いていますよ」と言うと、「良い会社ですね」と言ってくれる方はいますけど、そこで止まったら意味がないです。さらに踏み込んで言えたら、もっと興味を持ってくれて、障がい者雇用をやってみようと思ってもらえるかもしれない。
だから、障がい者雇用は経営につながっていることもきちんと伝えていきたいですね。
伝えるという点では、「どう接していいかわからない」という方にも伝えたいことがあります。どうしても考えすぎてしまって、気遣いすぎることもあるかもしれませんが、そうなると過剰になってしまいます。だから普通に、自然体で接すること。
もちろん、本人たちが持っている障がいの中で配慮しなければいけないことがありますから、そこをきちんと理解するだけで十分だと私は思います。
私も同感です。障がい者というと構えてしまって、どこかで気遣いをしなければと思ってしまうと思いますが、彼らは気遣いをしてほしいと思っていません。
変に考えすぎずに、普通に一社会人として接することが大切です。


障がい者雇用は経営につながると伝えるために。

先ほど「障がい者雇用は経営につながっていることをきちんと伝えていきたい」とおっしゃっていましたが、ダイソーウイングもそういったことを伝えるために、親会社から自立して経営ができる状態を目指しています。
私たちも今の取り組みを継続していくために、さらに良い経営状態を目指しています。我々の業界内もICT化が進んでいますが、モノづくり企業として障がいのある彼らと一緒にやっていくことだけは決めています。
当社はPCが得意なメンバーが増えていて、Excelもマクロを使って仕事をしているので、事務業務の請負の業務なども考えています。
他にも、札幌を中心に店舗をキャラバン隊のような形で巡回して、店舗業務をサポートしているのですが、これもさらに広げていきたいと考えています。
私たちも工場のある美唄の農業を支える事業や、障がい者雇用に興味がある企業、障がい者雇用で困っている企業にコンサルティングを行うことも考えています。
どのような事業をやるにしても、障がいを持った彼らと一緒にやっていきます。事業を続けていくのは何のためかと言えば、障がいとか健常という区別なく、世の中の一助になるというのが私たちの事業の目的ですから。まずはStandard Productsと一緒に「キットパス」を世界ブランドにしたいですね。
素晴らしい覚悟というか、心構えですね。本日は色々な話から勉強になることがたくさんありました。あらためて、ありがとうございます。
こちらこそこのような機会をくださりありがたいです。私たちにとっても気づきとなることが多くありました。ありがとうございました。

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