障害者雇用で試行錯誤を続ける企業が多い中、大創産業は様々な取り組みを行い、障害者の活躍が事業の一角として認知されるほどの状況を生み出しています。同社で障害者雇用10年以上のキャリアを持つI.Tさんに、その取り組みや考え方などを伺いました。
ダイソーウイングについて教えてください。
ダイソーウイングは、2007年に設立された大創産業の特例子会社です。特例子会社は、障害者の雇用に特別な配慮をして、障害者雇用の促進等に関する要件を満たすことで厚生労働大臣の認可を受けた事業所のことを言います。
設立当時は、本社センターで9名からスタートしましたが、今では本社センターの他に北海道、東京、大阪、広島市内にセンターを拡大し、従業員数も148名に増えました。20数名の支援者(サポーター)が全国に配置されていて、何か困りごとがあればすぐに相談にのったり、新規業務のレクチャーをしたり、業務差配をするなど、メンタルから作業面までをフォローしています。
大創産業におけるダイソーウイングの立ち位置とは?
一定数の従業員を抱える企業にとって、法定雇用率の障害者を雇用するのは当然の義務ですが、ダイソーウイングは、法定雇用率の達成を目指すだけの組織ではありません。
大創産業における事業の一角として「大創産業に貢献する存在になる」という目的を持った組織なんです。そのため様々な業務を受け持っているのも特徴の一つです。現在ダイソーウイングが担っている業務には、倉庫作業などの他に、パソコンを使った事務作業や商品の加工などもあるんですよ。
商品の加工も行っているんですか?
そうなんです。まだ完成していない状態の商品にバーコードのシールを張り、梱包などもしています。企画から製造、販売までを垂直統合させることでムダを省き、消費者ニーズに迅速に対応するビジネスモデルをSPA事業と言いますが、ダイソーウイングは大創産業のSPA事業においても、一部ですがその一端を担っています。
私が着任した当初は直接商品に関わる業務が少なかったので、実現できたときは、私個人としても感慨深いものがありました。
他にどのような業務があるのでしょうか?
先日、業務を数えてみたら約100業務もありました(笑)。トイレ掃除、除菌作業、社用車の清掃といった小さなものから、備品や商品などの発送や書類のデータ化、SDGsに関わる業務もあります。
書類のデータ化は、書類をPDF化して検索できるようにする業務です。契約書など、主に紙を扱っていた時よりも業務効率を大きく改善しました。また、商品梱包のビニールに付いているシールを仕分ける業務は、ビニールの再資源化を促進するために行っています。SDGsにもつながる大切な業務です。
100業務!?そんなに多いのですね!
以前は手が空いてしまうことがあり、「明日の業務をどうしよう」と悩むこともありましたから、今の状況は本当にありがたいです。実は3年前に、全ての部署を回って、担当者や上席に困っていることや人出が足りないことをヒアリングして、その中からダイソーウイングで担える業務内容の精査をしたんです。
そこから、みんなの頑張りもあって、ダイソーウイングの認知度は大きく上がりました。依頼回数も多くなり、内容も難易度の高いものが増え、今ではダイソーウイングが無いと回らないと言われるほどになりました。
人事部採用課主任 兼 ダイソーウイング本社センター長 I・Tさん
入社12年目。店舗運営から本社に異動となり、それから10年以上のキャリアを障害者雇用と共に歩み、現在は採用課主任とダイソーウイング本社のセンター長を兼任。
障害者雇用に対する想いを教えてください。
障害者雇用は特に採用したら終わりではなく、入社してからが本当のスタートです。入社後、いかに定着してもらうかが重要で、そのためには本人がモチベーション高く、自発的に活躍してもらうことが大切だと思っています。現場でモチベーション高く活躍してもらうために、全員が個人の目標を持って働いているんですよ。
どのような目標があるのですか?
ダイソーウイングには『元気なあいさつ』『清潔な身だしなみ』『報告、連絡、相談』『丁寧な言葉を使う』『目標を持って取り組む』という5つのルールがあります。それらを基にした「元気な挨拶を頑張る」といったものから、中には「お金を稼いで●●を買う」といったものまで様々です。自発的に動きやすいよう、会社から目標を課すのではなく、目標は各自で決めています。
取り組みや配慮について教えてください。
知的障害や発達障害、精神障害など、多様な方たちが在籍するので、様々な課題が出てきます。スロープ設置など施設面の配慮の他に、聴覚情報で理解することが得意でない方がいれば、視覚情報でしっかり伝わるようにマニュアルや掲示物を作成・改良したり、センター内の看板の文字を大きくしたり、色を付けたりなど、様々な工夫を行います。
掲示物などは「誰もが同じ結果になるように理解できるものを作る」というのがポイントです。本人の意見を聞くことがとても大切なので、面談の他にも、本社では困りごとをキャッチするツールもあります。
どのようなツールなのですか?
体調面や仕事のこと、環境面など何でも自由に書き込んでもらうシートで、その内容から様々な対応を行います。例えば、聴覚が過敏な方からの相談で、外部の音を遮断するパーテーションを設置した部屋を用意しました。
聴覚過敏といっても十人十色で、苦手な音も人それぞれ違います。シュレッダーの音や、机と机がこすれた音、話し声などでも過敏に反応してしまうので、本人の状況を聞きながら個別対応が必要です。ですから、「みんなで意見を出し合いながら会社をもっといい方向にもっていこう」と伝えるようにしています。
難しさを感じることはありますか?
支援には『過剰な支援』と『適切な支援』があります。私たちが「多分こうだろう」という思い込みで支援をしてしまうと、本人の意図とは違う方向に行ってしまうことがあるんです。
ですから、日頃のコミュニケーションをしっかり取ることで生活面も含めた情報を把握し、総合的に判断していく必要があります。それから、“寄り添いすぎる支援”も良くないので、俯瞰で見るといいますか、相手にのめりこみ過ぎないことも大切です。
寄り添いすぎてもダメなんですね。
依存させるためのサポートではなくて、将来的に1人でできるように、徐々に自立してもらうためのサポートを意識しています。これを『ナチュラルサポート』と言うのですが、「一緒について横で指導する」⇒「ちょっと離れて後ろから見守る」⇒「徐々に距離を離していき、遠くから見守る」⇒「完全に離れる」という4段階で行います。もちろん、自立後も常に様子を見て、適宜フォローを行っています。
課題に感じることはありますか?
1人のサポーターがカバーする人数が多いので、時間を捻出することに苦労する点です。ですから、毎朝サポーター朝礼を行い、共有シートでいつでも情報が共有できる体制にしています。
サポーターには未経験者もいれば、作業療法士や介護福祉士の資格を持つ方、就労継続支援B型の作業所での経験がある方など、バックグラウンドも様々。1日休んで空いてしまうと業務状況などが劇的に変化してしまうこともあるので、誰であっても、間が空いてしまっても問題ないように情報が共有できる状態を目指しています。
印象に残っている方はいますか?
たくさんいますよ。例えば、パソコン作業に挑戦したいと言ってくれた方。タイピングの練習ソフトで最初は100点満点中20点台だったのが、次第に100点が当たり前になり、今では後輩に教える立場になっています。人に教える立場になると顔つきも変わってきます。モチベーションも上がるし、自信もつきますからね。
他にも、車いすで立って作業することが難しい方とは何度も相談してパソコン作業を担当してもらい、得意な絵を活かして、店舗の方にプレゼントする“ありがとうカード”の挿絵を描いてもらいました。担当する業務で能力が開花する場合もあるので、業務差配はキーポイントと言えます。
今後の目標や展望について教えてください。
まだまだ理解が浸透していない部分がありますので、そういう方に向けた研修や、理解を広げていく活動も考えています。そして、環境や制度だけでなく、評価されやすい仕組みを作り、誰もが活躍できる舞台を整えたいです。最終目的は社会貢献、社会への還元です。
そのためのキーワードが「自立」「成長」「活躍」。人の成長が最終的に社会貢献へつながるので、人材育成が社会への還元なのだと思って取り組んでいます。また、これは夢ですが、全店舗で障害者の方が活躍する状況を生み出したいとも思っています。そのためには店舗の従業員、周りにいる親御さん、外部の支援者、医療機関、行政などと円になっての協力が重要なので、この連携も強化していきたいですね。
これから入社される方に、伝えたいことはありますか。
障害者雇用に10年携わってきましたが、その中で一番学んだことは“人について”。周りの理解があれば状況を変えられることはたくさんあるんです。みなさんも「働きにくいな」「上手くいかないな」と感じる場面が日頃の生活であると思います。
誰もが同じように人生の夢や目標を持っているのだから、障害・健常と分けて考えるのではなくて、働くうえで壁に感じる場面をできるだけ無くしていきたい。もし今、様々な事情で働けていない方、働くことが億劫になっていたり、恐怖心を持っている方、仕事が上手くいかない方など、そんな方がいれば、まずはダイソーを見に来てください。その一歩で人生が変わることもあると思います。お会いできるのを楽しみに待っています!