2023.07.18

第1回
障がい者雇用から見えてきた
多様性を受け入れる社会の姿とは。

人的資本経営の中でダイバーシティ&インクルージョンが求められていますが、その中でも“障がい者雇用”にスポットを当てた対談が実現しました。障がい者雇用の最前線を歩む日本理化学工業と、特例子会社のダイソーウイングを中心に障がい者雇用に向き合う大創産業の取り組みや想いとは?
全2回のスペシャル対談の第1回をお届けします。

     

※日本理化学工業とは?
粉の飛散が少ない「ダストレスチョーク」で国内トップクラスのシェアを誇るメーカー企業。その一方で、1960年から知的障がい者の雇用をスタートさせ、社員の約7割が知的障がい者という、障がい者雇用のパイオニア企業としても注目を集める。現在、国産のお絵描き道具「キットパス」をStandard Productsと共同して販売している。

 

誰もが働ける場所をできるだけ多く提供する。

まずは今回の対談をお受けくださり、ありがとうございます。障がい者雇用を長年されていらっしゃる日本理化学工業さんに、以前からお話を聞いてみたいと思っていました。
こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。ダイソーさんがどうしているかを知れることを、私も楽しみにしていました。
それでは、まずはお互いの障がい者雇用の状況を共有できればと思います。現在、当社のグループには障がいを持つ方が612名勤務しています。
大創産業に472名、特例子会社ダイソーウイングには140名が在籍していて、様々な業務を担当してくれています。障がいの内訳としては、知的の方が約半分、精神の方が4割、残りが身体の方です。雇用率は、現在2.69%になっています。
この規模で法定雇用率を超えているとは素晴らしいです!私たち日本理化学工業は、神奈川県の川崎と北海道の美唄の2カ所に工場があります。
全社員が91名で、その約7割である66名が知的障がいを持つ社員です。さらに、25名が重度の障がいを持つ方です。
社員の70%とはすごい!どのような仕事を担当してもらっているのですか?
私たちは、チョークや「キットパス」などの文具を作るメーカーですが、他にもプラスチックの成形や運動場に線を引くラインパウダーなども作っています。
その全ての製造現場に彼らがいて、中心になってモノづくりをしてくれています。
当社の場合、大創産業に在籍する472名の内、427名は店舗にて商品整理(前だし)や品出し、荷受けといった店舗業務のサポートをしてくれています。RDC(出荷倉庫)に在籍する30名、EC課に在籍する11名は商品のピッキングと店舗やお客様への出荷作業なども行っています。また、本部・本社にも4名勤務し、事務業務を行っていますが、まだまだ大創産業だけでは雇用人数が少ないので特例子会社ダイソーウイングでその分の採用を行っています。
ダイソーウイングでは、本社の人事総務系業務や店舗開発系業務のサポートを行うことが多く、PC入力や情報システムの運用を行うこともあります。システムに特化した非常に優秀なスタッフもいて、システム機器のセッティングだけでなく、Excelのマクロを使って様々なデータ収集を行うスタッフもいるんですよ。
様々な個性を持つ方が在籍されているんですね。
様々な個性があるので仕事の仕方も様々な工夫が必要ですが、これからも色々な活動をしながら、多くの方に「働く場所をできるだけ多く提供したい」と考えています。
働く場所の提供は本当に大切です。工夫はどのようにされていますか?
ダイソーウイング大阪センターではダイソー店舗で販売しているプラスチック商品の材質が書かれたシールやメーカーのロゴシールを貼って、商品を完成品に仕上げていますが、実は、御社の手法を参考にさせていただいているんです。
そうなんですか?
「日本理化学工業では色々な治具を作って業務をスムーズにしている」ということを人づてに聞いて、私たちも治具などを工夫しました。それにより、月産7~8万個から、今では月産20万個以上になりました。
それはすごい!何かを少し変えることで能力を発揮できることはよくあります。これは働く全ての人に言えることですね。
企業側も、まだまだ勉強しなければいけないと感じますね。

 
 

継続したコミュニケーションで互いに理解し、自分の役割を見つける。

障がい者雇用に取り組まれてどのくらいですか?
私たちは昭和35年からスタートしているので、62~63年目という、他より少し長くやっています。彼らは本当に無くてはならない存在で、全ての現場を守ってくれています。
共に働く私たちも、実は最初から障がい者雇用の知識や経験があるわけではありませんでした。ですから、何が苦手で何が得意か、何が好きで何が嫌いかを、働いていく中でキャッチしながら、コミュニケーションの中で理解することを続けてきました。
コミュニケーションは大切ですよね。
おっしゃる通りです。コミュニケーションの中では、こちらのことも知ってもらいます。互いに理解しようとしながら役割を見つけていくことを続けて、今に至っています。
何か心がけていることはありますか?
やはり定着してもらうことが大切です。私たちの規模では、“3人採用して1人残ればいい”ということなどできません。
1人採用したら、その1人が戦力になってくれないと会社が立ち行かないんです。一緒になって、お客様に約束する品質を提供できなければ会社が前に進みません。ボランティアの感覚でやっているわけではありませんから。
ダイソーウイングを設立して障がい者雇用に取り組んで16年が経ちますが、実は、最初は「福祉の延長線上」という考えて行っていて、失敗することもありました。その時の経験から、考え方ややり方など、様々なことを変えました。
なぜ私たちが60年以上も障がい者雇用を行っているかというと、「現場に彼らが必要だから」という理由以外にありません。現場でも集中力や持続力、邪念なく仕事に向き合う姿だとか、すごいなと尊敬します。
シンプルな生き方というか、優しさや思いやりを照れなく伝えてくれるところなどは、僕らを感化してくれます。色々なことはお互いさまで、仲間として一緒に発展していける会社でありたいと思っています。
採用する際に気を付けていることはありますか?
まずは近隣の学校に声をかけて、実習として仕事を体験してもらうことからスタートします。最初は就職が前提ではなくて、働くということを体験してもらうための実習です。採用までに2週間の実習を3回は行って、お互いにミスマッチがないかを確認します。
障がい者雇用だからということはなく、働く場所を決める際に重要なことだと思っています。
当社も同じです。マッチングしていなければ、お互いに不幸ですから。先ほど、「以前は福祉の延長線上だった」と言ったのは、全ての人を受け入れていたんです。しかしそれでは理解し合えない部分が出てきて上手くいきません。ですからマッチングは大切です。


ダイソーから羽ばたいて、自立・成長・自活ができるように。

大創産業、ダイソーウイングでは、障がい者スタッフの自立と成長、自活を支援することを大切にしています。
みなさんに勘違いしてほしくないのは、障がいというのは、苦手なことはあるけれど、他の人よりも何かの能力が突出しているということです。それを理解して、その能力や興味を活かせる場所を一緒に見つけていくことが大切です。
その通りですね。
例えば、ある発達障がいのスタッフは、記憶力が抜群に素晴らしい。たくさんの帳票の中から間違いをものの数分で見つけてしまうほどすごいんです。
ただ、集中力が続かない。3年ほどかけて彼としっかり向き合い、今では好きなPCを使う仕事をしてもらっています。やりたいことを見つけて自信をつけると、彼の言動や行動も変わりました。もちろん、ご家族の協力もありますが、人を活かすポイントはたくさんあるのだと気付かされた事例でした。
自信を持ってもらうことは大切です。当社では、戦力になってもらわなければ会社が立ち行かないので、きちんと向き合わなければいけませんから、とても共感できます。
各々が持つ素晴らしい能力を活かすことに挑戦し、同時に面談などでサポートしながら、「こうすればこの能力を活かせるのではないか」と、問いかけ挑戦し続けています。そうすることでみんなに自信をつけてもらい、次のステップへと繰り出していけるようにしたいんです。
最初の一歩目できちんと向き合い、それを続けていくことでプロフェッショナルという領域に行けるし、自信が持てるようになります。これまでの経験上、知的障がいの方が転職しようとしてもなかなか機会がありません。
だから、「その人にとっての居場所が会社の中にできているかどうか」ということも大事だと思っています。
居場所ももちろん大事ですね。それは障がいのある、なしに限らず、全ての働く人に言えることだと思います。
他人を受け入れていくと心が豊かになる、人が幸せになるための一番の近道なのかもしれません。好き嫌いとか色々な感情はありますが、受け入れて、それを超えていければ本当の仲間になる。そんな会社を目指したいです。
ダイソーウイングでは、先日、嬉しい事例がありました。PCが得意な障がいを持つスタッフが、社内で自信をつけて「ダイソーを卒業して違う場所でチャレンジしてみたい」と言い出したんです。
それは是非チャレンジすべきとお話をして「もし、何かあって帰ってきたいと思ったら、いつでも帰っておいで」と伝えて、応援して送り出しました。
それはすごい!その彼は、まだ別の環境で頑張っているんですか?
違う環境で頑張っているようで、そういう人を1人でも2人でも増やしたいんです。ダイソーウイングという会社名にあるように、ダイソーウイングから羽ばたいて、自立・成長・自活するスタッフが増えたら嬉しいですね。

 

※連載 第2回に続く >>

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